呉光憲の申裕斌への手紙「申裕斌だったらできるよ。申裕斌らしくプレーすればいいよ」。彼はパリに爪痕を残し代表チームを去った
全日本優勝インタビュー 張本智和「持っているものをすべて出し切って戦うしかない」[後編]
2024年4月号掲載
チェンジコートシた時に左足がピーンとなり始めて。ずっとそんな感じでした。そしてなぜか、14−14になった時に痛みがピタッと止まった。
Interview by
中川 学Manabu Nakagawa
写真=中川学 photographs by Manabu Nakagawa
世界ランキングで他の日本選手を大きくリードし、トップランカーとして走り続けている張本智和。 その一方で、国内最高峰の全日本選手権では苦汁をなめる年月が続いていた。 カタールからの帰国翌日に始まった今大会。張本は挑戦者たちの猛攻を正面から受け止め、弾き返した。 長く後世まで語り継がれるであろう戸上隼輔との決勝を前にして、張本は何を思っていたのだろうか。
持っているものをすべて出して戦うしかない。
相手よりも粘り切る、そう思ってコートに立ちました。
●─7ゲーム目はどのようなことを想定してコートに入りましたか? 張本 もうここまで互角だとフォアを攻めれば勝てるとか、あそこが弱点だとかそういうことではなくて、持っているものすべてを出して戦うしかない。相手よりも粘り切る、そう思ってコートに立ちました。 ●─なるほど。そうした心境の中でも技術、戦術的なことで鍵になったものはありましたか? 張本 技術的なポイントになったのはサービスとツッツキです。6ゲーム目に初めて縦回転のスイングで下回転サービスを出したんです。それまで短いサービスは全部チキータされていたんですが、初めて出した縦スイングの下回転には、戸上さんがチキータをためらったんです。その時に下回転を出せばチキータはある程度封じることができると思いました。縦スイングのサービスは下回転かナックルかがわかりにくいから、下回転を使ってからはナックルにもストップしてくれるようになったんです。7ゲーム目も下回転とナックルを使いました。 ツッツキも効きました。6ゲーム目の12-12でミドルにツッツキして相手がドライブミス。7ゲーム目の14-14でもバックにツッツいてドライブミスをした。戸上さんの中に下回転打ちはあまり頭になかっただろうから、6ゲーム目でそれを見つけられたのは大きかった。 ●─優勝後のインタビューで、7ゲーム目に足がつりそうになったと言っていました。 張本 5-4でチェンジコートした時に左足がピーンとなり始めて。そこから7-7、8-8になって。「もう足がやばい。早く試合を終わらせなくては」と思っていて。でもそこから悪化しなくて、ずっとそんな感じでした。そしてなぜか14-14になった時に痛みがピタッと止まった。「えっ? どうして」みたいな。左足を曲げておかないと危なかったのに真っ直ぐにしても大丈夫になりました。その時に根拠はないんですけど「絶対に来た!」と思って。そこから2本決めることができました。 全力を出して負けたのならばしかたないけれど、足がつったことが理由で負けたくはなかった。それだけは絶対に避けたいと思っていたんですが、今でもどうして痛みが止まったのかはわかりません。表彰の時は左足に少し痛みが戻ってきていましたから。