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【People】松本幸徳、スペインで見つけた激熱の「やりがい」

[スペイン卓球協会ジュニアコーチ]

卓球王国2024年2月号掲載

[まつもと・ゆきのり]
1987年9月8日生まれ、兵庫県出身。その田卓研で卓球を始め、滝川第二高でインターハイ学校対抗ベスト8、近畿大では関西学生リーグで36勝12敗の成績を残し、特別賞を受賞。卒業後、一般企業を経て日本卓球協会のエリートアカデミー総務となり、ナショナルチームの練習相手なども務めた。2022年にスペインに渡り、選手としてスペインリーグを経験後、今シーズンからスペイン卓球協会のジュニアコーチとして活動。現在、バルセロナに在住

Text by
今野昇Noboru Konno

スペインが大好きだった松本は愛する妻とともにスペインのバルセロナで暮らしている

 人の縁とは不思議なものである。
 小学6年で「その田卓研」(兵庫)で卓球を始め、すぐにカットマンになった。神戸市立有野中の時に全日本カデット、全中に出場。滝川第二高ではインターハイ学校対抗のベスト8が最高成績だった。そして近畿大に進み、関西学生リーグで活躍するものの、卒業後は化粧品関係の一般企業に入社し、卓球から8年近く離れていた。しかし、卓球の国内外の試合結果だけは毎日のように見ていたという。「卓球に未練があったんでしょうね」と当時を振り返る松本幸徳。

 そんなある日、近大の蝦名宏昭監督から日本卓球協会の宮﨑義仁強化本部長(当時)を紹介され、30歳でサラリーマン生活から一転して、ナショナルチームをサポートすることになった。2018年5月からエリートアカデミーのスケジュール管理、総務の仕事をするようになったが、海外遠征に帯同するようになるとカットマンとしてスパーリングパートナー(練習相手)も務めた。 

 その頃からお付き合いをしていたスペイン人のサラさんがスペインに戻るタイミングで結婚を決意。2022年8月にスペインに移住し、9月に結婚した。「何度もスペインに旅行に行っていたし、もともとスペインに住みたいと思っていた」という松本。一方、「国際大会に行くと、ヨーロッパの女子が弱くて、いつもアジアがベスト4を独占している。だから自分がスペインを強化して、アジアに対抗できるような選手を育てたいという夢を持っていました」と熱く語る。

 熱い思いはあったものの、松本はスペインの卓球協会と何のコネクションもなかった。移住して1年目は妻の知り合いのいる卓球クラブに所属して、スペインリーグ2部に参戦し、26勝2敗。スペインリーグの選手は他国のプロリーグと掛け持ちしながらプロ選手として生活している選手も多いと言う。「スペインリーグの男子1部は日本リーグの2部で上位に入るレベル、女子1部はインカレベスト8くらいのレベルですかね。日本から来る日本の大学生も8割ほど勝てる」(松本)。 そして松本は今シーズンから本格的に指導の道を歩み始めた。「今シーズンは選手ではなく、コーチ業一本でやっています。ナショナルチームのジュニアコーチとして活動し、家から近いクラブで週3回教えています」。

 スペイン語はまだカタコトだが徐々に話せるようになり、いずれスペイン語が上達したらコーチライセンスを取得する予定だ。言葉の壁、文化の違いはあるが、もともとスペインが大好きだった松本は愛する妻とともにスペインのバルセロナで暮らしている。

 人生はわからないものだ。スペイン人のサラさんと付き合い、近大の蝦名監督から声がかかり、日本卓球協会の仕事に就いたことで、松本の人生は大きく変わった。 

 「日本卓球協会のスタッフとして身近にトップ選手や指導者を見ていたので目は肥えている。日本にいる時から将来指導者をやるつもりだったので、そういう目で見ていたし、お手本として勉強していました。やりがいはメチャクチャあります。今は2028年ロス五輪でスペインの女子チームとともに五輪の舞台を踏むことが目標」(松本)

 日本人としての勤勉さと卓球への情熱。松本幸徳は大好きなスペインの地で指導に燃えている。

(文中敬称略)

4月のWTTユースコンテンダー(フランス・メッツ)でコーチしているシルビア・コルが準優勝。右端はスペインのトレス・ジュニアコーチ
2021年の東京五輪の時は日本選手団のサポーターだった松本。日本女子チームとの写真は今でも記念すべき一枚だ