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古川佳奈美:メイクで気合いがスイッチオン! 頂点目指す本格速攻ガール

卓球王国2021年1月号掲載(「東京パラ代表ファイル」に加筆)


■古川佳奈美(ふるかわ・かなみ)[えん・コミュニケーションズ]
1997年7月27日生まれ、福岡県出身。中学から卓球を始める。2015年から国際大会へ出場開始。2018年パラ世界選手権3位。2019年アジアパラ選手権ベスト8。2019年ジャパンオープン3位。右シェークフォア表ソフト・バック裏ソフト・速攻型。PTTクラス11・世界ランキング5位(20年4月)→2位(24年6月)

しゃがみ込みサービスからの両ハンド速攻でメキメキと頭角を現し、世界ランキング上位者と互角に渡り合うまでに成長した古川。クラス11(知的障がい)日本女子の新エースとして、初選出となった東京パラリンピックに向け、持ち前の明るさとガッツで突き進む。

コーチとの二人三脚で大きく成長。「アドバイスがきれいに頭に入る」

 会場でも一際目を引くキュートなルックスと、元気あふれるガッツポーズ。しゃがみ込みサービスからのパンチ力のある両ハンド速攻も、クラス11の中では独自の輝きを放つ。近年、ぐんぐんと力をつけている古川佳奈美、23歳(2020年時)。自身初となる東京パラリンピック代表の切符を手にし、充実した練習の日々を送っている。

 1997年、福岡県生まれの古川が卓球を始めたのは中学1年から。小学4年時に「軽度知的障がい」と「自閉症」と診断された古川は、もともとスポーツは大好きで、中学入学時に卓球部へ。「友だちもコーチもとても良い雰囲気だったし、卓球はすごくおもしろくてハマった」(古川)。

 しかし高校卒業とともに練習場所がなくなってしまう。娘が卓球をすることで明るく変わる様を見ていた母の倫子は、充実した練習環境とともに、障がいを受け入れてくれるコーチを探した。

 こうして2016年から古川は「博多卓球」に通い始め、古川と井保啓太コーチの二人三脚が始まった。平日の日中は地元企業「えん・コミュニケーションズ」の明太子工場で働きながら、夜に練習するハードな日々は、早5年目となる。

 井保は、古川の持ち味である攻撃力を生かしつつ、安定して繋ぐプレーの強化にも取り組んだ。特に古川は試合中、集中力が切れて無理打ちをしてしまうことがあった。そこで井保が古川に伝えた言葉は、「ジャイアンみたいになったらダメでしょ」。ドラえもんが大好きという古川の心に、「荒いプレー」のイメージがすっと入っていった。「コーチのアドバイスは、きれいに頭に入ってきて覚えやすい。一から卓球を教えてもらいました」と、古川は井保に全幅の信頼を寄せている。

 また井保の提案で、古川は時折、博多卓球に通う幼稚園生や年配の生徒の練習相手もした。これは、相手が打ちやすいように送球するコントロールを身につけるとともに、相手にレッスンをするのが目的だ。すると古川は、井保も驚くほど的確なアドバイスをするようになったという。この経験もあって、当初は技術用語も知らなかった古川は、卓球への理解が深まり、自ら戦術を考えるようになっていった。

24年6月パラIDジャパン・チャンピオンシップ大会では21歳の新星・岩浅琴音(NKT)に敗れて5位。しかし国内女子クラス11は競争が激しい中でも、古川はコンスタントに優勝・入賞を続けている

丁寧にあこがれて始めたしゃがみ込みサービス、そして試合前のメイクが武器

 博多卓球で着実に成長を続けた古川は、国際大会でも徐々に結果を残すようになる。一方で古川が苦手意識を持ったのは国内大会だ。ドライブの多い海外選手と違い、国内選手の異質プレーに苦戦したのだ。何か突破口がないものか。その答えが、しゃがみ込みサービスだった。

 「私は高校時代、大好きな丁寧選手(中国)に憧れて、しゃがみ込みサービスをやってみたんです。でもラケットにボールが全く当たらなかった(笑)」(古川)。

 しかしその数年後、井保と「何か武器がないか」と相談する中で、かつての挑戦を思い出したのだ。井保のアドバイスで、三代目 J Soul Brothers『Share The Love』に合わせてリズム感を覚え、5種類のサービスを自在に出し分けるまでになった。

 クラス11で使用者がほとんどいないしゃがみ込みサービスは、もちろん国際大会でも武器となり、2017年には、当時世界ランキング2位の選手に勝利。「まぐれだと思った」というが、翌18年の世界選手権で、同選手に再び勝利して銅メダルを獲得。クラス11で日本人初のメダル獲得の快挙だ。「この時初めて世界のトップに追いつけるかもと思った」(古川)。

 19年アジアパラ選手権でもベスト8、同年のジャパンオープンでは、リオパラリンピック金メダリストに勝利して3位入賞を果たした。準決勝では世界ランキング1位、ロシアのカットマン・プロコフェワと激戦。ゲームオールと競りながらも、最後は打ち急ぎで惜敗したが、井保は「技術的には負けている部分はない。打ち急ぎを我慢するだけ」と評する。こうして世界トップと互角に渡り合えるまでに成長した古川は、今春、念願の東京パラリンピックへの切符を手にしたのだ。

 現在はフィジカル強化に取り組みつつ、技術面では繋ぐ技術の安定性を磨いている。また課題だったメンタル面の解決策のひとつとして、数年前から取り入れたのが、試合前のメイクだった。

 「コーチに『友だちと遊びに行く時にメイクをしたら気分が上がるでしょ。試合でもしたら?』って言われて始めたんです。そうしたら試合でスイッチを入れられるように変わりましたね。それに、試合でも人に見られることを意識するようになった。応援してくれるみんなのために頑張れるようになったと思います」(古川)。

 技術やフィジカルに加え、メンタル面でも大きく成長を遂げた古川。元来持っていた明るくフレンドリーな性格は、卓球を通じて花が咲き、博多卓球の子どもたちや、遠征で知り合った選手ともすぐに仲良くなる。「卓球で一番楽しいのは、スマッシュが決まった時に気持ちいいこと。あと、試合で友だちが増えるのも良いですね」と笑顔で語る。

 東京パラの目標については、「コーチは『金メダルは確実に獲れる』って言ってくれます。金を目指したいですが、まずはメダルを獲りたいですね」と謙虚に語る古川。一方で、「自分の活躍で知的障がい者卓球を広めていきたい」と意欲的だ。

 明るくひたむきに頑張る古川は、周囲が自然と応援したくなる選手だ。東京パラでは、そんな彼女の最高のプレーと最高の笑顔を見てみたい。(文中敬称略)■

安定したバックから、フォア表ソフトのスマッシュに結びつける速攻型