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[プレイバック2021東京五輪]DAY12/8月5日・「本気」で優勝を狙い、中国を「本気」にさせた日本 

女子団体戦に見た日中新世代の東京五輪

Text by
高樹ミナMina Takagi

五輪や世界選手権でメディアが好むフレーズがある。「日本史上最強メンバー」だ。

 いつだったか、この常套句に「毎回そう言ってますよね」と突っ込んだのは平野美宇だった。その平野も一員となって戦った東京五輪の卓球女子団体メンバーは伊藤美誠、石川佳純との3人で銀メダルを獲得。個々の実力が高く、本気で金メダルを取りに行った彼女たちは間違いなく、日本女子卓球史上最強だった。

 中でも絶対的なエースに成長した伊藤は大会前に、世界ランクを2位まで上げ、常勝軍団の中国を脅かす存在となった。中国は東京五輪の代表メンバーに伊藤に勝てる選手を選んだと言われ、エースには伊藤と同じ20歳の孫穎莎を据えてきた。

 ほんの2年前、北海道札幌市で開かれた19年ワールドツアー・ジャパンオープンで優勝した孫穎莎は、東京五輪出場の可能性を日本の記者団に問われ、「自分は東京五輪は考えていない」と明言していた。

 実際、当時は16年リオ五輪金メダルの丁寧と現在まで世界ランク1位をキープする陳夢、19年世界選手権ブダペスト大会優勝の劉詩雯で東京五輪代表は固いと見られていた。孫穎莎もポテンシャルは高いがまだ実績が少なく、目指すのは次の24年パリ五輪だった。

 だが新型コロナウイルスのパンデミックで東京五輪が1年延期され、状況は一変。今回、劉詩雯に代わって団体戦1回戦から試合に出たリザーブの王曼昱にもチャンスが巡ってきた。

 彼女の場合、ジュニア時代から中国の次期エースと期待されていたが、東京体育館で開かれた18年ジャパンオープンでツアーデビューした1歳下の孫穎莎が、シングルスとダブルスの両方で優勝して2冠を達成。そこから存在感を増していった後輩の陰に王曼昱は隠れるようになった。現在22歳の王曼昱も本命はパリ五輪だ。 

 彼女のプレーには鬼気迫るものがあった。3番で対戦した平野も「1本多く返してくる、そのボールの質がすごく高くて最後まで強さに圧倒された」と話していたが、打てば打つほど球威を増す打球の一本一本に、同世代のライバルに遅れをとった悔しさと、巡ってきたチャンスをものにしたいという気迫がこもっていた。

 そんな王曼昱の姿に刺激を受けたのが日本のリザーブ、早田ひなだ。連日、スタンドから全力で仲間を応援していた早田は、同じリザーブの王曼昱に自分を重ねた。2人はともに長身で、長い手足を生かしたパワードライブが持ち味。「同じようなタイプだからすごく気になって、いい刺激をもらいました」と早田。パリ五輪では必ず自分も代表メンバーになって、中国と金メダル争いをする。スポットライトを浴びる選手たちを見つめながら、早田はそのイメージを膨らませていた。

 そして、前回リザーブから代表メンバーになった平野。リオ五輪2カ月後の女子ワールドカップ優勝から年明けの全日本選手権初優勝、そして中国の丁寧、朱雨玲、陳夢を撃破し優勝した17年アジア選手権、日本女子として48年ぶりのメダル獲得となった同年の世界選手権デュッセルドルフ大会銅メダルなどの快進撃の後は、結果が出ない時期が続いた。

 自身も辛く長かった時期を振り返り、「もうダメなんじゃないかと思うことがたくさんあって、卓球をやめたい時もあった」と五輪の銀メダルを胸に涙。幼い頃から夢見た五輪の初舞台で輝く笑顔を見せ、「幸せ」だと言った。そして「まだまだ卓球をやりたい。これからも頑張りたい」と話す姿に、ようやく暗いトンネルを抜けて光が差すのを見た。

 一方、伊藤と石川は大会期間を通してプレーも精神面も安定していた。シングルスベスト8の石川は、もっとやれたのではないかという思いもあったようだが、団体戦では気持ちを切り替え、1番のダブルスで1点を挙げるという使命に燃えた。

 また伊藤は混合ダブルスで中国の許昕/劉詩雯という強敵を倒し、金メダル。女子シングルスでも銅メダル、団体で銀メダルと一大会で実に3つのメダルを手にした。

 大会前、卓球王国本誌に「オリンピックが終わる時には3つの金メダルを首にかけて笑顔で終わりたい」と宣言していた伊藤。人を驚かせるのが好きなサプライズ娘がまた偉業をやってのけた。

 卓球は五輪の中でも競技日程が長く、新たに混合ダブルスが加わった東京大会は前回リオ大会より1日長い13日間に及んだ。そのぶん試合を楽しめるという点では恵まれたが、伊藤のように3種目全てに出場した選手は途中で疲れも出たようだ。

 「こういうふうに戦えたのも皆さんの支えがあったから」と伊藤は言う。特にコロナ感染対策のため会場に入れなかったスタッフに対し、石川、平野、馬場監督も感謝と労いの言葉を忘れなかった。

 自国開催の東京五輪で打倒中国を誓った日本は、またしても団体戦で中国の牙城を切り崩せなかった。それでも12年ロンドン五輪の銀、16年リオ五輪の銅に続く3大会連続のメダルは立派だ。

 次のパリ五輪で歴史は塗り替えられるのか。新世代が中心となるだろうパリ五輪はもう3年後に迫っている。                                                        ■

決勝を戦い終えて、中国チームから握手を求められた日本。優勝を本気で狙った日本が、さらに中国の強さを引き出すことになった。「さすが中国」「あっぱれニッポン」