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【People】髙橋翼:卓球を通じて行う「恩返し」と「恩送り」

[JICA海外協力隊 グアテマラ 卓球隊員]

[たかはし・つばさ]
1999年8月13日生まれ。群馬県出身。沼田中・高、駒澤大卒業。小学4年生で本格的に卓球を始め、高校時代にはインターハイに3年連続で出場。大学卒業後はデザイン会社に就職したのちにJICA海外協力隊に応募。23年7月にグアテマラに着任し、8月よりケツァルテナンゴ市にて活動開始。卓球の指導・普及活動を行う

Text by
中野正隆 Masataka Nakano
photographs by
髙橋翼Tsubasa Takahashi

不安もありましたが、卓球をやり残した気持ちの方が大きかった。
このモヤモヤを晴らせると思って海外協力隊に応募しました。

JICA海外協力隊員としてグアテマラで卓球の指導を行う髙橋翼。日本から約1万2千㎞離れた異国の地で、自身がこれまで得た卓球の技術を次の世代へと伝えている。

(卓球王国2024年6月号掲載)

グアテマラで卓球の指導を行う髙橋(写真左)

 「中学で卓球部に入部した兄と一緒に遊びたいから」という理由で小学4年生から卓球を始めた髙橋。すぐさま卓球のおもしろさにのめり込むと、群馬・沼田高時代には猛練習の末に3年連続でのインターハイ出場を果たした。

 そんな髙橋だが、駒澤大進学後は思うように成績が伸びず、「壁の高さを感じて、自分の中で卓球から一歩引いてしまった」と挫折を経験。さらに追い討ちをかけるように、2年生の終わり頃には新型コロナの流行により、大学の練習場が使用できなくなった。

「人生で初めて卓球から1カ月も離れました。でも、練習ができなくなった不安や焦りなどはなくて、その瞬間、選手としての卓球人生はひと区切りなのかなと感じました」(髙橋)

 4年時には徐々に試合が再開されたものの、部内でクラスターが起こり、引退試合にも出場できずに不完全燃焼のまま大学を卒業。一旦はデザイン会社に就職したものの、卓球に対する心残りがあったこと、大学時代に実際に協力隊員として海外に行っていた人の話を聞いていたことから、JICA海外協力隊への応募を決意した。
 「不安もありましたが、卓球をやり残した思いのほうが大きかった。このモヤモヤを晴らせると思って応募しました」

 希望の任地として「卓球があまり盛んではない場所が良かった」と中南米のグアテマラを選択。合格後、日本での事前・語学研修を経て、2023年7月にグアテマラ・ケツァルテナンゴ市に着任した。

 グアテマラでの主な活動内容は卓球の普及と指導。午前中は地域の学校で授業の一環として卓球の普及活動を行い、午後はクラブに通う子どもたちの指導にあたる。また、監督としてケツァルテナンゴ市の子どもたちが出場する大会にも帯同している。

 国内には卓球専門店がなく、用具の調達手段は主にアメリカからの輸入。その上、価格も高価なため、ほとんどの人が用具を満足に買うことができない。そんな中でも、子どもたちは高いモチベーションで練習に取り組んでいる。

 「国内だけでなく、中南米やパンアメリカ大会でも勝ちたいという雰囲気がチームにはあります。そのため、ただ卓球の楽しさを教えるだけでなく、強化にも積極的に取り組んでいます」

 グアテマラでの任期は2025年7月まで。帰国までは残り1年弱だが、できる限りのことを伝え、次の世代を育てていきたいと語る。 「私の卓球人生ではいろんな人に恩をいただきました。その恩を返すだけでなく、次の世代に『恩送り』をしていけたらと思っています」

 恩人には感謝を伝え、人の為には全力で尽くせる人でありたい。「恩返し」と「恩送り」がこれからの人生のテーマだという。

 大学で挫折を味わい、就職を機に一度は卓球から離れた髙橋。しかし、グアテマラでの経験を経て「やっぱり卓球って楽しいですね」と晴れやかな笑顔で語る。そんな彼の活動を、心から応援したい。  (文中敬称略)

ケツァルテナンゴ市の子どもたちが出場する大会に帯同し、ベンチでアドバイスを送る髙橋
地域の学校に出向き、普及活動も奥なっている