[ワルドナー伝説]vol.18 第3章 1 クレイジー・フォー・ゴルフ
『100年にひとりの天才』と称された、ワルドナー(スウェーデン)の半生に迫った書籍『ワルドナー伝説』(卓球王国刊・絶版)。人気を博した1冊を卓球王国PLUSでプレイバック。今回から第3章がスタートです(第2章から1カ月ほど間があいてしまったことお詫び申し上げます)
Text by
イエンス・フェリッカJens Fellke
第3章 アウトサイド・ザ・コート
Outside the court
←vol.17 第2章 達人への道 13 マンチェスターのあと、シドニーでの銀メダル
1 クレイジー・フォー・ゴルフ
■ゴルフ狂のワルドナーとザ・チップ。やおらワルドナーは全英オープンの解説を始めた
その日の午後、私はスウェーデン第2の都市、イエテボリの豪華なホテル「パーク・アベニュー・ホテル」の856号室のドアをノックした。黒のジーンズをはき、黒のTシャツを着た金髪の美人がドアを開けてくれた。
「あ、すいません」私は言葉に詰まった。
「……部屋を間違えました。ワルドナーの部屋だと思って……」
「イエンスなの?」その声は美人の女性が発したのではなく、部屋の奥にいたワルドナーのものだった。
「急がなくていいよ。The Chip(ザ・チップ)の部屋にいるからそこに来てくれればいいよ」と、姿の見えないワルドナーに向かって、私は答えた。
それは97年7月のある土曜日のこと。その日はそのシーズンの最初のナショナルチーム合宿の集合の日だった。その前日、スウェーデン国内のスポーツ界のスターが集まってゴルフのコンペが行われ、ワルドナーの姿もそこにあった。ゴルフのあと、食事会があり、そしてバスで移動して、ダウンタウンのバーにみんなで向かった。そこで黒い服を身にまとった女性がワルドナーを見つけ、声をかけた。もしくはその反対だったのかも……。
「ザ・チップ」と言っていたのは、トーマス・フォン-シェーレのことだった。彼はナショナルチームのメンバーであり、91年の世界選手権ではピーター・カールソンと組んだ男子ダブルスでチャンピオンになっていた。