水谷隼の[卓球の試合を10倍楽しむポイント]vol.5・最終回:これで卓球の見方が変わる!
卓球王国2024年3月号掲載
解説・水谷隼[東京五輪金メダリスト]
イラスト:バーヴ岩下
全日本選手権を前に、東京五輪金メダリスト・水谷隼さんが、サービスとレシーブを中心とした試合への自身の視点を紹介。これを読めば、卓球観戦のポイントがより深まり、卓球がさらにおもしろく感じられるかも⁉︎
スイングの速さ、音、バウンドでサービスを判断する
レシーバーは、サーバーのどこを見て、どう回転の種類を判断するのでしょうか。
レシーバーは、サーバーのボールがラケットに当たる瞬間のラケット角度に注目し、打球音によって回転量や球種を判断しています。切れているサービスは、風を切るような「シュッ」や「シュパッ」という音がしますが、切れていないサービスは「ポコン」という、まるで太鼓を叩いたような音がします。
次に、スイングの強さと速さを見ます。インパクト時にどれだけ速くラケットが振り抜かれていくかで、ボールの回転量を瞬時に判断します。ボールに回転をかけない時には、スイングスピードは基本的にゆっくりです。ゆっくりとしたスイングで回転をかけることは、物理的に不可能です。
また、スイングの時に相手の腕(上腕・前腕)の動きも見ます。速く振った時には腕が震えているので、その腕の動きも見ます。もちろんトップ選手は速いスイングで回転をかけない選手もいます。次にサービスの打球直後の台への進入角度を見ながら、長短などを判断します。台への進入角度と第1バウンドを見て、サービスの長短を判断します。
サーバーの第1バウンドがネット際に来た場合の多くはショートサービスです。またボールにスタンプされているマークも非常に重要です。回転がかかっている場合はマークが全く見えませんが、かかっていない場合はマークがゆっくり回転しているのが見えたりします。そのような情報をもとに球種や回転量を読みます。第1バウンドがサーバーのエンドラインに近い場合はロングサービスが来ることが多いです。
ところが、林昀儒(チャイニーズタイペイ)のように第1バウンドを手前(エンドライン近く)に落とし、ロングサービスとショートサービスを使い分ける選手がいます。観客からすると、一見何の変哲もないサービスに対してなぜレシーバーがミスしたり、ボールを浮かしたりするのだろうと不思議に思うかもしれません。彼は同じところにバウンドさせて長短のサービスを出すので、相手は動き出しの判断が遅れるのです。通常はネット際に落とすショートサービスを手前でバウンドさせ、途中まで同じ軌道に見える林昀儒のサービスは必見です。
チキータは主に2種類を使い分ける
今やテレビでも、卓球をやったことがない人でも「チキータ」という言葉を使うようになりました。選手によって、チキータにも個性や癖があります。チキータには主に、速いチキータと横回転が入った2種類のチキータがあり、サービスの種類や相手によって、これらを使い分けます。
ゆっくりとしたチキータや、横回転を入れたチキータは、ボールの手前、もしくは側面を狙い、安定性を重視したチキータです。サービスが分かりづらい時や、体勢が悪い時、ミスしたくない時でも攻撃的なレシーブをしたい時に、このチキータが使われます。
一方、サービスを読み切っている時などは、ボールの上部を狙い、速いチキータを繰り出して得点を狙います。最近では、トップ選手たちがチキータ対策を進めているため、以前よりチキータの回数は減っています。無理にフォア前に来たサービスをチキータで打つのではなく、フォアでストップしたり、ツッツキを使ったりしています。
以前はストップレシーブに対して、サーバー側がダブルストップ(ストップに対してストップする)という展開が多かったのですが、今ではダブルストップではなく、サーバー側がストップレシーブをチキータで狙うラリーが増えています。
最近の卓球の傾向として、サービスからの3球目攻撃で一撃で決める展開は減りました。それは、チキータの登場によって、チキータを封じるための縦回転系(下回転と無回転)のサービスが多くなったからでしょう。つまり、横下や横上のような回転のサービスはチキータで狙われやすいため、サーバーはチキータ封じのために縦回転系サービスを出すのです。強い下回転サービスはチキータで攻めるのが難しく、ストップレシーブも多くなるので、サーバーが3球目攻撃で決めるパターンも減り、5球目くらいでラリーが決まることが多いようです。
終わりに
卓球のラリーにおいて、派手なラリー戦で決まることは実はそれほど多くなく、サービスやレシーブからの3、4、5、6球目までで得点が決まることが多いのです。今回、サービスとレシーブに関するポイントいくつかを挙げましたが、これらを参考にして試合を観たり、自分の試合に活かすと、卓球の楽しさが10倍…いや、20、30倍、楽しくなりますよ!