真説 卓球おもしろ物語27【生まれ変わる日本の卓球とメジャー化への挑戦】
〈その27〉卓球王国2022年9月号掲載
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卓球史研究家・卓球コラムニストの伊藤条太氏が、独自の視点で卓球史を紹介するこのコーナー。今回は1997年世界選手権マンチェスター大会から、2000年クアラルンプール大会まで。日本卓球界は個人戦・団体戦ともに久しぶりの世界選手権でのメダル獲得、初の外国人コーチ就任による新しい風が吹いた。国際卓球界ではITTF新会長による卓球の改革が進行していた。
参考文献 「卓球レポート」1996年9月号重村旦インタビュー、「卓球レポート」1997年1月号柴田幸男インタビュー、「卓球王国」19号小林秀行インタビュー、「卓球王国」20号、21号道上進インタビュー、「卓球王国」1999年10月号、11月号アレーンインタビュー、「卓球王国」2000年1月号シャララインタビュー
1997年世界選手権マンチェスター大会、天才・ワルドナーの完勝と松下浩二/渋谷浩の銅メダル
1997年世界選手権はマンチェスターで開催された。卓球発祥の地、イングランドでの開催は1977年バーミンガム大会以来、20年ぶりのことだった。
完全復活した中国が7種目中6種目で優勝したが、その中で気を吐(は)いたのが、男子シングルスで二度目の優勝を飾った天才、ヤン─オベ・ワルドナーだった。ワルドナーは団体戦ではブラディミル・サムソノフ(ベラルーシ)、フィリップ・セイブ(ベルギー)、そして田﨑俊雄に敗れたが、個人戦に入ると完璧な強さを発揮し、1ゲームも落とさずに優勝してのけた。
世界選手権史上、男子シングルスで1ゲームも落とさずに優勝したのは、現在に至るまでこの大会のワルドナーただひとりである。1992年バルセロナ五輪での金メダル以降、優勝から遠ざかっていたことがリラックスをもたらし、神がかったプレーに繋(つな)がったものと思われる。
ワルドナーはヨルゲン・パーソンと組んだ男子ダブルスでも銀メダルを獲得したが、そのペアに準決勝でフルゲームの末に敗れたのが松下浩二/渋谷浩だった。1983年世界選手権東京大会での小野誠治/阿部博幸以来、14年ぶりの男子ダブルスの銅メダルだった。長かった日本卓球の冬の時代がもうすぐ終わろうとしていた。