樊振東&陳夢 ふたりの金メダリストが残した足跡 [パリでのラストダンス] part1
卓球王国2025年3月号掲載
2024年12月27日、卓球界をショッキングなニュースが駆け巡った。樊振東と陳夢が自らのSNSで、世界ランキングからの離脱を表明したのだ。2025年最初の世界ランキングで、ふたりは先輩の馬龍とともにランキングから姿を消した。
多くの苦難を乗り越えて、パリで輝きを放ったふたりの金メダリスト。改めて東京からパリへと走り抜いた、3年間の足跡を振り返る。
記事提供=『世界』text by Table Tennis World
インタビュー=陳思婧 interview by Chen Sijing
文・翻訳=柳澤太朗 text & translation by Taro Yanagisawa
写真=レミー・グロス、浅野敬純 photographs by Rémy Gros & Takazumi Asano
「パリ五輪前に考えていたことはとてもシンプルなんだ。大会が終わった後で後悔したくないということだ」(樊振東)
中国には「十年磨一剣(十年、一剣を磨く)」ということわざがある。長い年月鍛錬を積み重ね、それを発揮する機会を得るという意味だ。
ともに2013年の世界選手権パリ大会(個人戦)で世界代表としてデビューし、11年の時を経てパリに凱旋した樊振東と陳夢。パリでふたりが見せたプレーはまさに集大成。「十年磨一剣」と言えるものだった。
2024年5月にパリ五輪の中国代表メンバーが発表された際、自らのSNS『微博』にただひと言「Last dance(ラストダンス)」と書き込んだ樊振東。パリ五輪で現役を引退するのかと、中国の卓球ファンの間で憶測が駆け巡ったが、本人は中国の卓球雑誌『ピンパン世界』のインタビューで、その真意についてこう語っている。
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●あなたが微博で発した「Last dance」という言葉には、多くの意味が含まれていたように思います。「全力を尽くしてオリンピックを戦う」ということだったのでしょうか?
樊振東(以下・樊) ぼくはオリンピックの結果について、いろいろと期待したり、予想することをやめたんだ。周りがぼくの勝敗についてどう考えているか、ということもね。そういうことは全部頭の中から追い出した。
ぼくは今回のパリ五輪を最後のオリンピックだと、それどころか最後の大会だと思いながらプレーしたかった。余計な期待や想像をしたり、迷うのは嫌だったし、「良いプレーができるのか」「優勝できるのか」と思い悩むのも嫌だった。何も恐れることなく自分自身を解放して、自分が新しく生まれ変わり、新たなステージへと登る契機にしたかったんだ。