
Tリーグを制した市民球団。T.T彩たま、7年目の奇跡。地域に根ざした卓球チームが作り出した感動
卓球王国PLUS独占記事

Text by
今野昇Noboru Konno

一人の男が「浩二を見捨てられない。協力する」と声を上げた
それは8年前のことだった。2018年の秋、日本初のプロ的な新リーグ「Tリーグ」がスタートする前の話だ。
Tリーグがプロリーグという呼称にならなかった理由は、チームを持つ大企業が独立したプロ卓球の法人を設立できない社内事情があったからだが、それは致し方ないことだった。それでも、卓球の新リーグを支えてもらうだけで十分だし、卓球界への大きな貢献であることに間違いなはない。
そんな中、リーグ創設者の松下浩二(現VICTAS社長)は加盟できるチーム集めに奔走していた。1億円から2億円かかると言われるクラブ運営に名乗りを上げる人や会社は多くはなかった。彼の理想や情熱は理解できるが、決して小さなお金ではないため、今思えば当然のことだったし、準備期間も短すぎた。
特に当時は女子選手のほうが認知度と人気度が高く、男子チームを集めるのに苦労する中、一人の男が「浩二を見捨てられない。協力する」と声を上げた。現在、T.T彩たまのチームの会長を務める柏原哲郎である。彼は栃木県の野木中から熊谷商高、そして明治大学と卓球の名門を歩んだ卓球人だった。
松下とは明治大学卓球部の同期であり親友であった。明治大を卒業して何年かしてから、父が営んでいた北関東を拠点とする大手の中古車ディーラー「トーサイ」の社長に就任していた。会社としてリーグに加盟することには広告メリットもなく、ただ単に松下を助けるために名乗りを上げたと言えるだろう。