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卓球マニア養成ギブス[ようこそ卓球地獄へ] 日本卓球復活の秘策  

卓球王国ブックス「ようこそ卓球地獄へ」<第3章 妄想卓球スパーク!>より <その19>

Text & Illustration by
伊藤条太Jota Ito

卓球には上回転を使うドライブ型と下回転を使うカット型があるのに、どうして「横回転マン」はいないのであろうか

 2007年世界選手権ザグレブ大会の結果を見ると、卓球日本の復活はまだまだ遠いようである。復活のための地道な努力は専門家に任せるとして、ここではアイディア一発の秘策について提案したい。

 常々思っていたのだが、卓球には上回転を使うドライブ型と下回転を使うカット型があるのに、どうして「横回転マン」はいないのであろうか。ラケットを思いっきり縦に持って構え、すべてのボールに全身を使って力の限り横回転をかけてはどうか。当然、構えや重心移動を含め、まったく新しい基本技術が必要となろう。ただし、普通のドライブやカットをしようとして自然に横回転になってしまうような奴にやらせてもダメである。それは横回転の才能があるのではなくて、卓球の才能がないのだから、世界制覇の役には立つまい。

「ボディ・ハイド・サービス」をご存知だろうか。相手に背中を向けて構え、インパクトを体で隠して脇の下からボールを送り出す、1980年代初頭に大流行したサービスである。あまりの威力のために今ではルールで禁止されているが、ラリー中については何ら制限がない。これを利用しない手はない。名づけて「ボディハイドマン」である。真後ろを向いた基本姿勢から、ラリー中のすべてのボールを体の前まで呼び込んで足音を鳴らして打球するのである。これで回転に変化をつければ効果は絶大だ。いつも後ろを向いたまま試合をするので相手に顔も覚えられにくく、ベンチのサインを見逃すこともない。相手のボールが見えないのが難だが、首を一八〇度ひねる訓練が鍵である。

 バックハンドの技術がどれだけ発達しても、スイングの回転半径の差がある限り、フォアハンドの威力と安定性にはかなわない。したがって理想の卓球はオールフォアであるが、それには限界がある。この限界を突き破るスタイルとして「両ハンドオールフォア型」を提案したい。バックにきたら左手にラケットを持ち替えて全部フォアにしてしまうのだ。もはや「バック」は存在しなくなる。さらに、足を鍛えて足への持ち替えも併用すれば「両ハンド型」ならぬ「フォーハンド型」となり、その戦力は四倍。卓球史を覆す究極のスタイルとなろう。

ラリー中に口からニセの打球音を発して相手を惑わすのが「ボイスイリュージョン」である

 わずかな反応時間が勝負を決める卓球では、打球音もプレーに影響を与える。声帯模写の名人は、列車の音や爆発音など、まさかと思うような音を口から出すことができる。これを卓球に応用し、ラリー中に口からニセの打球音を発して相手を惑わすのが「ボイスイリュージョン」である。インパクトから0.08秒ほど打球音をズラしたドライブや、グルーの強ドライブ音を「キン」と発しながらのストップ、まだサービスを出していないのにレシーブ音がするなど、相手を恐怖のどん底に落とし入れることは間違いない。弱点は自分の打球タイミングも狂うことであるが、まずは気を確かにもって練習してもらいたい。

 最後はダブルスでルールの盲点をつく作戦である。意外なようだが、卓球のルールでは、選手の構える位置についてはいっさいの規定がない。ひとりがサービスを出すとき、そのパートナーはどこに構えていてもかまわないのである。ネットの真横でもいいし、フェンスの後ろでもいいのだ。もうおわかりだろう。私の案はズバリ、相手ペアの間である。名づけて「パパは出張中」。
精密な機械ほどわずかなゴミにも弱いという。これほどの異常事態を前にすれば、さしもの中国選手も冷静ではいられなくなり、満足なプレーは不可能なはずだ。さらに思い切って、相手を押しのけてレシーブの位置に構えてしまえば完璧である(間違ってナイスレシーブをしてしまわないよう注意したい)。51%理論を考えた荻村伊智朗はその著書で「相手が自分と同じ考え方をしたとき、もっとも恐ろしいと考えた」と書いたが、それはこの作戦にこそ当てはまる。つまりこの場合、パートナーどうしの異種格闘技戦になってしまうのである。そうなると、世界選手権男子ダブルスの決勝の結果が「フルゲームジュースで吉田海偉が馬琳を『腕ひしぎ逆十字』でフォール勝ち」などという事態になりかねない。そのときこそ卓球は、総合格闘技として新たな地平を切り開くことになろう。

 他にも、相手の距離感覚を狂わせるためにユニフォームに卓球台を描く「ゴーストテーブル」、顔にネットのペインティングをする「ネットマン」など、アイディアは無数にあるのだが、幸いにも紙幅が尽きた。くれぐれも本気にしないでいただきたい。

●卓球界に衝撃を与えた抱腹絶倒の連載コラム「奇天烈逆も〜ション」を編纂した「ようこそ卓球地獄へ」(2014年発刊)からの掲載です

■Profile いとう・じょうた

1964年岩手県生まれ。中学1年からペン表ソフトで卓球を始め、高校時代に男子シングルスで県ベスト8。大学時代、村上力氏に影響を受け裏ソフト+アンチのペン異質反転ロビング型に転向しさんざんな目に遭う。家電メーカーに就職後、ワルドナーにあこがれシェークに転向するが、5年かけてもドライブができず断念し両面表ソフトとなる。このころから情熱が余りはじめ卓球本を収集したり卓球協会や卓球雑誌に手紙を送りつけたりするようになる。卓球本収集がきっかけで2004年から月刊誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。世界選手権の[裏]現地リポート、DVD『ザ・ファイナル』の監督なども担当。中学生の指導をする都合から再びシェーク裏裏となり少しずつドライブができるようになる。2017年末に家電メーカーを退職し卓球普及活動にいそしむ。著書に『ようこそ卓球地獄へ』『卓球天国の扉』がある。仙台市在住。

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