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【People】牧田健一 : 中学部活、やりがいの陰で見つめる現場の課題

卓球王国2025年7月号掲載

 3月下旬、富山県で開催された中学選抜卓球大会。大会運営スタッフの一員として、進行業務に携わっていた現役の中学卓球部顧問・牧田健一。部活動の地域移行など、いわゆる「部活問題」が注目を集める今、現場で生徒と向き合う一教師として、その率直な思いを語ってくれた。

 富山県富山市出身の牧田は、小学3年生の時に地元のスポーツ少年団で卓球を始めた。中学時代には団体で県優勝、北信越大会ではベスト4入りも果たした。
 高校は進学校に進み、卓球部に所属。勉学と競技の両立を目指し、インターハイ出場を目標に掲げたが、残念ながら叶わなかった。
 しかし、学業の面では旧帝国大学のひとつである北海道大に進学。大学でも卓球を続け、「七大戦(旧帝国大学の運動部による年に1回の大会)」にも出場。勉強にも励む仲間たちと切磋琢磨できることが魅力だったという。
 大学卒業後は中学からの夢だった教員の道へ。高校進学時には強豪校に進む選択肢もあったが、「教員になることも考えて」と、あえて進学校を選んだ。
 そして、教員を志したもうひとつの理由は「卓球部を指導したい」という思いだった。顧間の希望がすぐに通るとは限らない中、赴任1校目から卓球部の顧問を任され、以後も複数の学校で指導を続けている。
 現在、教員の負担軽減を目的に、部活動の「地域移行」が進められている。牧田は、現場に立つ教師として、その流れを肯定的に捉えつつも、複雑な思いを抱いている。
 「私は教師として、部活動の大変さを実感しています。日々の業務に追われる中、休日にも部活や大会があり、今日(選抜取材時)も大会運営に協力してくれた先生方もおられましたが、本当は『家族と過ごしたい』という思いもあるはずです。
 自分の場合、これまで続けてきた卓球部を任されているので指導も多少はできるし、やりがいも大きい。ただ、専門外の競技を受け持つ先生が多いのも現実です。そうした状況では、やはり部活動は教員の手から離していく必要があるのでは、と感じることもあります」
 一方で、卓球のように「中学校の部活動をきっかけ」に始める子の多い競技では、地域移行によって競技に触れる機会が減り、競技人口の減少に繋がる懸念も指摘する。
 「地域クラブで頑張る子もいますが、“卓球なら始めやすそう”という理由で中学から卓球部に入る生徒が多いです。それがなくなると、卓球という競技の『入口そのもの』が消えてしまうかもしれない」    
 だからこそ、牧田は「自治体と協力して、部活の代わりになる場を整えることが先決」と語る。
 今回、大会運営をしていた富山県の多数のスタッフから推薦を受け、インタビューに応じてくれた牧田。その真摯な姿勢と温かな人柄で、スタッフからの信頼は厚い。
 日頃の部活での指導に加え、大会前はエントリー確認や組み合わせ作成など、幅広い業務に奔走する多忙な日々を過ごしている。だからこそ、見える景色があり、語るべき言葉がある。
 「部活の今」と「卓球の未来」に思いを巡らせる牧田のような存在が、今、求められている。    (文中敬称略)

■ PROFILE
まきた・けんいち
1989年7月18日生まれ、富山県出身。小学3年時に地元のスポーツ少年団で卓球を始め、中学・高校も卓球部に在籍。北海道大卒業後は地元富山で教員となり、現在赴任5校目。卓球部の顧問を務めながら、富山県卓球協会・富山県中学体育連盟にも所属し、部活指導の傍(かたわ)ら中学生の大会運営にも携わっている