【タイムマシン8・これダレ】「体は小さくても剛腕!」

[ようこそ卓球地獄へ/妄想卓球スパーク!]2010年世界選手権モスクワ大会・妄想観戦記
卓球王国ブックス「ようこそ卓球地獄へ」<第3章 妄想卓球スパーク!>より <その30>

Text & Illustration by
伊藤条太Jota Ito
「なんですって?」劉国梁は耳を疑った。「聞こえなかったのか。ドイツに勝ちを譲れと言っているのだ」
男子団体決勝の30分前、中国男子チーム監督・劉国梁の携帯電話が鳴った。北京の蔡振華・国家スポーツ総局副局長兼中国卓球協会会長からだ。試合前の最後の戦術確認と激励だろう。この人心掌握術によって蔡振華はこの20年間、中国チームを優勝に導いてきたのだ。
しかし、電話の内容は、これまでとはまったく違ったものだった。
「なんですって?」劉国梁は耳を疑った。
「聞こえなかったのか。ドイツに勝ちを譲れと言っているのだ」
「そんな……」
「これまで君たちが続けてきた並々ならぬ努力はわかっている。しかしこのまま我が中国が覇権を維持し続けたらどうなる? 強すぎる中国によって人民の卓球への興味は薄れ、卓球はもはや存在できなくなるだろう。これは卓球の危機、引いては国家の危機なのだ」