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[ようこそ卓球地獄へ/アメリカン卓球ライフ]『南アラバマ卓球クラブ』  

卓球王国ブックス「ようこそ卓球地獄へ」<第4章 アメリカン卓球ライフ>より <その34>

 

Text & Illustration by

伊藤条太Jota Ito

まずは安心した。彼が異常殺人者である可能性は、ほぼなくなったわけだ

 2000年の12月、仕事でアメリカのアラバマ州のドーサンという小さな町に二週間の滞在をしたときのことだ。私は、スキあらばアメリカ人と卓球をしてやろうと、ひそかにラケットをスーツケースに忍ばせ、明らかに仕事には不必要な近辺の地図を買い込んでいたのだった。

 平日の仕事は思いのほか順調に進み、まんまと土曜と日曜をフリーにすることに成功した。卓球ができる。

 さっそくインターネットで卓球クラブを探してみると『南アラバマ卓球クラブ(Lower Alabama Table Tennis Club)』というのが一番近い。220キロか。行けるな。

 こうなるともう、いてもたってもいられない。電子メールなんてまどろっこしい。電話をするのだ。知らないアメリカ人とカタコトの英語で電話をするなんて、仕事なら恐ろしくてとてもできないが、卓球をしたい気持ちの方が勝ってしまう。

 電話に出たのは上品な低音の声の紳士だった。「自分は日本から仕事で来たのだが、卓球をしに行っても良いか」と聞くと「イエース!」と感情たっぷりの答え。大歓迎だという。嬉しい。驚いたのは、そこは24時間365日、いつでも無料で卓球ができるらしいのだ(卓球台がヨーラ製だと強調するところがなんとも可笑しかった)。そんなところ日本にもめったにないだろう。さすがアメリカ、こういう福祉は進んでいるのだなと感心したのだった。このときすでに私は正常な判断能力を失っていたのである。遠くから行くのでホテルに泊まるつもりだと言うと、なんと彼の家に泊めてくれ、ステーキもたらふく食わせてくれるという。卓球が好きな人はみんないい人なのだ。一般のアメリカ人の家に泊まるなんて、得がたい経験だ。多少の不安はあったものの、ともかく行ってみることにしたのだった。

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