[People]卓球での草の根交流で汗を流すコジャタエフ大使は、日本とカザフスタンをつなぐ「卓球大使」
卓球王国2025年12月号
PEOPLE イエルラン・バウダルベック・コジャタエフ[駐日カザフスタン共和国大使]

イエルラン・バウダルベック・コジャタエフ
1967年、当時ソ連だったカザフスタンのタラズ生まれ。カザフ国立大学ジャーナリズム学部、モスクワ国立大学附属アジア・アフリカ諸国大学日本語学科を卒業後、1992年にカザフスタンの外務省に入省。翌年には研修生として来日し、その後、在日大使館の一等書記官、参事官を務めた。2008年に駐シンガポール大使に任命され、2016年より現職の駐日大使に着任
協力:T.T Labo
「外交官の仕事は公式行事が多く、市民と触れ合う機会は少ないですが、卓球を通じてそれができます」
流暢な日本語で、カザフスタン共和国のコジャタエフ大使は夢中になっている卓球について語り始めた。
旧ソ連(ソビエト連邦)時代のカザフスタンで生まれ、中学時代にアパート前の庭で遊びで始めた卓球。高校の頃は週に2回ほどボールを打っていたという。
「大学ではいったん卓球から離れましたが、外務省に入ってからは週に1、2回ほど遊びでやっていました。その頃、外務大臣だった現在のトカエフ大統領と一緒に卓球をしていました。大統領は当時、外務大臣と同時に卓球協会の会長も務めていました」
コジャタエフ大使は日本に研修生として2度訪れたのち、1997年から2003年までの約7年間、在日大使館の一等書記官・参事官として駐在。その後、40歳で駐シンガポール大使に着任。現地ではさまざまな卓球場に通い、シンガポール代表ヤン・ツーの父が経営していた卓球場でも練習したという。
16年、日本への赴任が決まると、ヤン・ツーが張本一博を紹介して、江戸川区で練習するようになった。
「今でも江戸川区で週3、4回ほど練習しています。そこにはレストラン経営者や年金生活の方、ビジネスマンなど、さまざまな人が集まります。卓球は単なるスポーツではなく、草の根の交流です。外交官の仕事は公式行事が多く、市民と触れ合う機会は少ないですが、卓球を通じてそれができます。試合では、外交官としてはなかなか行けないような場所にも行って試合をしました。
一緒に練習し、会話を重ねることで日本社会を深く知ることができました。外交官としては得難い経験です。しかも卓球は他のスポーツと違ってお金がかからず、気軽に始められる。また、卓球仲間にカザフスタンのことを話し、知ってもらう良い機会にもなっています」
カザフスタンは中央アジアに位置し、1991年に旧ソ連から独立した。国土面積は日本の約7倍、人口は約2080万人で、ロシアと中国に挟まれ、ロシアとは7,500km以上に及ぶ国境を接し、さらにキルギス、ウズベキスタンとも隣接している。
「3年ごとに宗教的リーダーの会議を開き、日本からも神道や仏教の方々が参加しています。宗教が原因で紛争にならないよう力を入れているのです。地理的には約15%がヨーロッパに属し、残りがアジアに位置しており、カザフスタンはヨーロッパとアジアの架け橋の役割を果たしています。文化的にもヨーロッパとアジアの融合ですね」


笑顔を見せながらも実に真剣に練習をするコジャタエフ大使
大統領の肝いり。卓球の振興に力を入れるカザフスタン
昨年(2024年)はアジア選手権が首都アスタナで開催され、2027年には世界選手権の開催も予定されている。コロナ禍前にはITTFワールドツアー・グランドファイナルも開催し、現在はWTT大会も積極的に行われている。トカエフ大統領は、大衆スポーツの発展、特に卓球の振興に力を入れている。
「ゲラシメンコのような強い選手も出てきましたし、地方には卓球専用のトレーニングセンターを建設し、卓球強化に力を入れています。インフラが整ってきたので、今後は優秀なコーチを招聘し、カザフスタンの子どもたちが日本に来て練習するなど、交流をさらに深めたいと思っています」
「私自身、シンガポール時代から卓球に夢中でした。ウォーキングやジムと違い、卓球は全く飽きませんし、良い汗をかけます。頭を使いながら、ボールを追うので目にも良く、アルツハイマー病の予防にもなると言われているし、やればやるほど面白い。日本では80歳、85歳でも卓球を続けている方を見かけますが、本当に幸せそうですね。卓球は子どもも高齢者も、障がいのある人も同じルールで一緒にできる。男性も女性も対等に楽しめる、まさに“民主主義のスポーツ”です」と満面の笑みを見せた。
日本とカザフスタンをつなぐコジャタエフ大使は、まさに「卓球大使」と呼ぶにふさわしい人物だった。
(文中敬称略)



