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【アーカイブ森田侑樹】無念の2位、夜中のメール。雨か涙か……

卓球王国2016年1月号の編集後記より

2025年12月号の「セカンドキャリア」で紹介した森田侑樹のことをおよそ10年前の卓球王国の編集後記で記事にしていた。全日本選手権ベスト8の成績を残し、2019年に32歳で現役を退いた森田。今回、セカンドキャリアの取材をしながら、ふと10年前の編集後記を思い出してしまった。アーカイブとして紹介しよう。

2015年日本リーグ後期より
Text by
今野昇Noboru Konno

 夜中に携帯へ一通のメールが来た。「夜分遅くすみません。またもや2位でした。どうしたら優勝できますか」。その時、私は答えるべき言葉を失ってしまった。

 短いけれども、それは彼の苦しみを絞り出すようなメールだった。日本リーグで優勝を逃し、駅から家に帰る途中に雨に打たれながら、彼はメールをしていた。その頬は濡れていた。メールの続きを打とうとしたけど彼は打てなかった。

 11月8日、メールの主はシチズン卓球部主将の森田侑樹だった。彼が名門実業団チームに入った頃は、才能にあふれているが、練習態度や卓球への甘い姿勢を先輩選手に批判されるような選手だった。

 しかし、あれから数年経ち、結婚して家庭を持ち、主将としての重責を担いつつ、立派な選手に成長した。最近のシチズンは練習量も増え、確実にチーム力も上がっている。今までは決勝に上がるだけでも満足していたのに、優勝を逃し悔しくて仕方がないという様子がメールからにじみ出ていた。

 今季、シチズンは全日本実業団、全日本団体、日本リーグ後期と3大会連続で2位に甘んじた。加えて、森田自身も全日本社会人は2位で終わった。さすがにこの2位続きに本人は相当にへこみ、責任を感じている。1位と2位の差を痛感し、卓球と真摯に向き合い、努力をしているからこそ誰よりも悔しさを感じ、眠れない日々を過ごすのだ。 

 同じ時期、世界のトップクラス入りを果たしている東山高の後輩、大島祐哉も全日本学生の決勝で森薗政崇に敗れ、「もう銀はいらない」とつぶやいた。

 ときに1本、2本のわずかな差で優勝と準優勝に分かれてしまう。優勝する人は優勝すべき理由を持っている。「たまたまの優勝」はない。同様に、決勝に行くことだけでも大変なのだが、そこで負け続けてしまう人にも理由があるのだ。だから勝者と敗者の差は小さくて大きい。

 その理由を、シチズンや森田や大島は探している。体力面、精神面、戦術面が要因なのか。それとも普段の練習なのか、単なる性格的な弱さなのか。彼らは明確な答えを持たないまま、コートに向かう。「試合で勝つ人間は土壇場でどんな汚い手を使ってでも勝ちに行こうとするんですよ。実際に汚いことをしなくても、そういう気持ちが最後の勝負を分けるんです」と語ったチャンピオン水谷隼の言葉を思い出した。

 大会で優勝できないままキャリアを終わる選手は山ほどいる。そして2種類の敗者がいる。負けてあきらめる人と、負け続けてもあきらめない人。答えもわからないまま、悩み苦しみ、悔し涙を多く流した人が確実に強くなる。 

 優勝を目前にしながら森田はもがいている。あの日の森田の頬(ほほ)を濡らしたのは雨だったのか、涙だったのか。

(当時・発行・編集人/今野昇)

2015年日本リーグ後期でシチズン時計は協和発酵キリン(当時)に敗れて2位に終わった。協和発酵キリン戦の2番で笠原に敗れた森田