【People】米田裕哉[大学卓球の魅力を伝える「改革派」幹事長]
卓球王国2026年1月号掲載
文=浅野敬純 text by Takazumi Asano

大学卓球部の各種大会は各地区の学生卓球連盟(学連)によって取りまとめられ、現役学生による「幹事会」が中心となって運営される。その各地区学連を統括する日本学生卓球連盟の幹事長・米田裕哉は「改革派」としてちょっとした注目を集めている。
「マジか…」から始まった「裏方」の学連生活
「マジか…」。それが明治大監督の髙山幸信から、関東学生卓球連盟の幹事会に自分を推薦したいという話を聞いた米田の心境だった。大会を運営する学連の仕事はひと言で言えば「裏方」。学連の業務が優先で練習量は減り、選手としての活躍は難しくなる。初めは学連に対してネガティブな気持ちを持っていた。
秋田で生まれ育った米田が、名門・明治大に入学したのは2022年の春。まず、練習場で衝撃を受けた。
「ひと言で言えば『エグい』ですよね(笑)。ぼくは公立校から明治に入りましたけど、周りは強豪校出身ばっかりで。3月まで地元で友だちと練習してたのが、4月になったら同じ練習場に宇田さん(幸矢/協和キリン)、戸上さん(隼輔/井村屋グループ)がいる、みたいな。『別世界に来たな』っていうのが一番でした」
ただ、そんな中でも米田は大学1年から結果を残した。関東学生選手権男子シングルスではスーパーシードの選手を破ってベスト64まで進出。団体で試合に出るのは難しいかもしれないが、リーグ戦のベンチに入ること、秋田から全日本に出ること、関東学生選手権で結果を残すこと、そんな目標を持っていた。
また、関東学生選手権である程度の結果を残したことで、米田自身「(自分が)学連に行くことはないだろう、選手として頑張らせてくれるだろう」と考えていた。しかし、冒頭で触れたように、髙山の推薦で米田は大学2年から学連に入ることになる。当初は「ああ、3年間学連か」とも思っていたが、学連での仕事は新たな気づきばかりだった。大会会場の確保、開催費用の管理、試合の進行など、それまで考えたこともなかった大会運営の大変さ、そしてありがたさがわかった。ネガティブな印象があった学連の仕事に、次第にやりがいを感じるようになっていった。
「最初に思ったのは『大会って、こういう感じでやっていたんだ』ということ。それまで考えたこともなかった、見えていなかったことがたくさんあって。体育館を借りるのに1日いくらかかるのかだったり、お金の動きもそうだし、どうやって試合を回していくかという進行の大変さや工夫もそうです。大会って、簡単に言ったら試合をするだけかもしれないですけど、それを作って進める側に入ったことで初めて見える部分が本当にたくさんありました。
大学2年の時に秋田の全日本予選に出たんですけど、それが運営をせずに出るひさびさの試合だったんです。純粋に『ありがたいな』って思いましたね。普段は一番最初に会場に行って準備をして、撤収作業をして一番最後に会場を出る立場なので」

大学3年で日本学生卓球連盟幹事長に抜擢
大学3年になると、日本学生卓球連盟の幹事長に就任。幹事長は4年生が務めるのが慣例だが、その働きぶりが評価され、3年生での抜擢となった。
「最初は『学連か…』みたいな感じでしたけど、やっていると楽しくなってきて。明治はチームメイトも強くて、卓球を頑張っても試合にはなかなか出られないので、それなら学連で頑張って、こっちで花を咲かせようかなって思うようになったんです。そこを評価してもらったのかなと思います」
はじめに髙山が米田を学連に推したのにも理由がある。試合に出場する選手と同じく、学連幹事も明治大を代表する「顔」。その「顔」となれる人間だと見込んで、米田を推薦した。「髙山さんには、今となっては感謝しかない」と米田は語る。
幹事長として米田が特に力を入れたのは、SNSでの情報発信だ。これまでは事務連絡的な投稿が中心だったが、大会があれば動画や画像とともに結果を速報し、個人でも学連の仕事や取り組みを紹介。次第に注目を集めるようになった。
「大学卓球をもっと盛り上げたい、注目してもらいたいというのが一番ですね。あとは学連の仕事を知って、興味を持ってほしい気持ちもあります。ぼくは学連に入って大会運営の大変さを知りましたけど、それを知っている選手が増えれば積極的に運営に協力してくれるようになるかもしれないし、もっと良い大会を作ることができると思っています。
日学連の中村(守孝)会長にも言われますが、何かを変えるには従来どおり、マニュアルどおりではダメだし、改革しないといけないと思っています。『大学で卓球をやりたい』『学連で仕事がしたい』という人が増えてくれたらうれしいですね」
日学連幹事長を2年間務める中で、米田が最も「大変だった」と振り返るのが、今年7月にドイツで開催された、大学生の国際競技大会・FISUユニバーシティゲームズ。米田は日本代表の総務として帯同したが、大学の授業に就職活動もこなしながら、JOC(日本オリンピック委員会)、日本卓球協会とも連携し、1月から大会に向けた多岐にわたる業務に奔走。ドイツに発つ直前にはインカレもあり、多事多忙な日々を過ごした。
大会期間中も時には練習相手やアドバイザーまで務めるなど、全力で選手のサポートにあたり、日本の金2つを含む4つのメダル獲得に貢献。幹事長として忘れられない7カ月になった。
「国際大会ってトラブルも多くて、英語もわからないのでいちいち戸惑ったり、試合が全然始まらなかったり。そんな中でも選手が頑張ってくれて金メダル2個と銀メダルと銅メダル1個ずつを取ることができたので良かったと思います。
スタッフも人数が少ないので、日本選手の試合が同じタイミングで入ることもあって、面田(采巳/愛知工業大)のベンチに入ったりもしました。それで中国選手にも勝ったりして。まあ、ぼくはベンチに座ってただけですけど(笑)。彼女の頑張りは普段から見てるんで、すごいうれしかったですね」

キッカケは横谷晟。次の目標は「強くなって卒業する」
そして、幹事長としての仕事も山を越え、残り少なくなった学生生活で米田には「強くなって卒業する」という次の目標がある。学連に入ってから自分の卓球は二の次だったが、ユニバーシティゲームズでの横谷晟(宮崎県スポーツ協会)の懸命な戦いぶりに胸を打たれた。そこから、選手として社会人で再び全国の舞台に立つことを目指して練習に励んでいる。
「横谷さんの試合を見て『もう一回、選手として頑張りたい』って思ったんです。学連に入ってからの2、3年はほとんど自分の練習はしてなかったんですけど、今は少し時間もできて、『勝ちたい』と思って練習してます。木方(圭介)とか芝(拓人)とか、強い後輩も練習してくれるし、『こんなに良い環境ないな』って。3月までこの環境をめいいっぱい使って、強くなって卒業しようと。気づくのが遅いですよね(笑)。
目標は社会人になって全日本だったり、全日本社会人に出ること。相手に『こいつ、学連だったのに強いな』って思わせたいです。練習量は減ると思うんですけど、その中でも強くなりたいので、今は支援してくださるスポンサーさんも募集しています。興味があればご連絡をいただけるとうれしいですね」
来春からは一般企業に就職するが、引き続きOBとして学連のサポート、そして大学卓球を盛り上げる取り組みは継続していく。もっと多くの人に「大学卓球はおもしろい」、そう思ってもらえるように。
■ PROFILE よねた・ゆうや
2004年3月10日生まれ。秋田県出身。秋田卓球会館で小学生から卓球を始め、秋田大附属中・秋田高で全中、インターハイ、全日本ジュニアなどに出場。明治大に進学し、1年時の関東学生選手権でベスト64。2年時から関東学生卓球連盟幹事となり、3年時から日本学生卓球連盟幹事長を務める。
米田裕哉Xアカウント:@Yuya20040310


