百年の茅台酒が語る秘話②
~松﨑キミ代と周恩来の友情~
1961年、第26回世界卓球選手権北京大会。
時の世界女王・松﨑キミ代は、中華人民共和国の周恩来総理と出会う。
贈られた1本の茅台酒が伝えるのは、慈愛と友情に満ちた物語。
日中卓球交流の源流をたどる旅に出かけよう。
文=李永亮 text by Nagasuke Li(アジア芸術文化協会 理事長)
翻訳=古屋順子 translation by Junko Furuya
写真提供=松﨑キミ代 photo courtesy of Kimiyo Matsuzaki
「今夜は誇らしくて、うれしくて、眠れそうにありません」(松﨑キミ代)
宿泊先の新僑飯店に戻ったのは真夜中過ぎだった。松﨑キミ代一行がエレベーターに乗ろうとしたとき、周恩来総理の秘書が追いかけてきた。手には総理から贈られた茅台酒の瓶を抱えている。
赤いリボンが結ばれ、神秘的な光沢をまとった茅台酒の瓶を眺めながら、松﨑は興奮で寝つけなかった。彼女はホテルの便箋で遠く香川県にいる父に手紙を書いた。
お父さんへ。今夜は誇らしくて、うれしくて、眠れそうにありません。試合の結果についてはもう報道を見たことでしょうから詳しくは言いません。お知らせしたい本題は、今日の夕方、中国の大政治家である周恩来総理が日本代表団のために送別会を催してくださったこと、もっとありがたいのは、周総理からお父さんにと贈られた茅台酒を受け取ったことです。これは一番有名な名酒だそうです。明日から2週間、私たちは中国各地を回って友好交流試合をします。この貴重な茅台酒は、よくよく注意して、傷ひとつつけないように持って帰りますから、楽しみにしていてください。