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卓球マニア養成ギブス[ようこそ卓球地獄へ]ネーミングの話 

卓球王国ブックス「ようこそ卓球地獄へ」<第3章 妄想卓球スパーク!>より <その18>

Text & Illustration by
伊藤条太Jota Ito

TSPはこの『桂』の姉妹品として『小五郎』というラケットも発売していたのである

 卓球用品の名前にはいろいろと面白いものがある。『スブリィ』という商品をご存知だろうか。バタフライの素振り専用ラケットの名前である。一見、身もふたもないようなネーミングだが、カタカナにして最後のイを小さくして英語らしくしたところが気が利いている。こういうユーモラスなネーミングには、実はかなりのセンスが要求される。ただの『スブリ』ではなく『スブリィ』。この違いはとてつもなく大きい。卓球ではないが、似たようなセンスのもので思い出すのは、中学校にあった避難用滑走袋『オリロー』である。こちらはなんとなくヨーロッパの趣である。また、焼却炉は『モヤスター』であった。ロゴに星のマークが添えてあるのを見てニヤリとしたものである。

 1980年代の中頃、TSPから『桂』というラケットが発売されていた。ペン単板ラケットの材質といえば、今では檜が定番だが、歴史的には朴、黒柿などさまざまな木材が使われてきた。その中でも桂は、檜と遜色のない打球感が得られる木材として知られている。桂を使ったラケットだからその商品名が『桂』、そこまではいい。問題は次である。TSPはこの『桂』の姉妹品として『小五郎』というラケットも発売していたのである。
おわかりだろうか。実は、幕末の長州藩士に「桂小五郎」という人物がいたのである。桂は後に木戸孝允と改名し、薩摩藩士とともに幕府を倒した人物なのだが(ためになるコラムだなあ)、卓球が日本に伝来したのは明治35年であるから、当然ながら卓球になど関係があるはずがない。TSPは、全国の卓球愛好者を相手にラケットの製品名で駄洒落をやってのけたのである。なんという懐の広さだろうか。TSPにはこの路線を徹底的に推し進めてもらいたい。たとえば松を使ったラケットで「たか子」、杉を使って「良太郎」、楢を使って「大仏」なんかどうだろうか。柳ならちょっと渋すぎるが「ジョージ」でどうだ。

面白いのはヨーラで、『バッドマン』(悪人)というのだから思い切った話である。粒高を使っているだけで悪人呼ばわりされたのではたまったものではない

 製品名で興味をそそられるのはなんといっても粒高ラバーである。なにしろいやらしい性質のラバーなので、そのネーミングは各社味わい深い。バタフライは『フェイント』で、プレーそのまんまの意味である。さすがシェア世界一のエリート会社、比較的ストレートである(ちなみに世界初の粘着性ラバー『タキネス』も英語で「ベタベタ」というそのまんまの意味である)。TSPの『カール』は、インパクトの瞬間に粒が倒れる様子を表しているし、ニッタクの『スクリュー』とアームストロングの『ツイスター』は、いずれも異常な回転を連想させるネーミングである。面白いのはヨーラで、『バッドマン』(悪人)というのだから思い切った話である。粒高を使っているだけで悪人呼ばわりされたのではたまったものではない。いや、悪人ならまだいい。ヤサカにいたっては『ファントム』(幽霊)だ(まあ、これはボールの動きを指しているのだろうが)。

 メンテナンス用具は各社とも駄洒落(だじゃれ)の宝庫である。カッコよさよりもわかりやすさと親しみやすさに重点をおいているためなのだろう。ラバークリーナーの泡を「アワー」とかけて、バタフライから『ラッシュアワー』が発売されればニッタクが『クリーンアワー』で追い上げる。ヤサカも以前から、ラバーフォームふき取り用具『フキトーレ』で、あやしい動きを見せていたが、ついに最近、水溶性クリーナー『清水さん』、そのふき取り用具として『拭くださん』を発売するに至った。もう徹底的に親しみやすさ路線である。しかしこの分野でもエースはやはりTSPである。いくらスピードグルーの「グルー」が「糊」という意味だとはいえ『のり子』は凄すぎはしないか。それをカタカナで『ノリコクリーン』としたところでどうなるものでもあるまい。TSPは以前から『ふきとるくん』『のばしっこ』『らばくり』など、異常にひらがな好きであったが、最近とうとう何かがはじけたようで、ついにブランド名までその標的にし「てぃえすぴー」と大書きしたタオル、ソックス、リストバンド、ヘアバンドが一挙発売されるに至っている。うーむ、さすがヤマト卓球株式会社、大和魂にあふれている。どうせならテンション系ラバー『ビヨーン』も「びよ~ん」にしてはどうだろうか。いや、こっちの話。

 このコラムも、いつにもまして役に立たない話で大変恐縮である。お後がよろしいようで。

注:文中の商品は、すでに廃番になっているものもあります

  (2014年6月現在)

●卓球界に衝撃を与えた抱腹絶倒の連載コラム「奇天烈逆も〜ション」を編纂した「ようこそ卓球地獄へ」(2014年発刊)からの掲載です

■Profile いとう・じょうた

1964年岩手県生まれ。中学1年からペン表ソフトで卓球を始め、高校時代に男子シングルスで県ベスト8。大学時代、村上力氏に影響を受け裏ソフト+アンチのペン異質反転ロビング型に転向しさんざんな目に遭う。家電メーカーに就職後、ワルドナーにあこがれシェークに転向するが、5年かけてもドライブができず断念し両面表ソフトとなる。このころから情熱が余りはじめ卓球本を収集したり卓球協会や卓球雑誌に手紙を送りつけたりするようになる。卓球本収集がきっかけで2004年から月刊誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。世界選手権の[裏]現地リポート、DVD『ザ・ファイナル』の監督なども担当。中学生の指導をする都合から再びシェーク裏裏となり少しずつドライブができるようになる。2017年末に家電メーカーを退職し卓球普及活動にいそしむ。著書に『ようこそ卓球地獄へ』『卓球天国の扉』がある。仙台市在住。

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