
[用具の18のタブーに迫る①]重いラケットで打つとボールは重いのか
卓球王国2021年5月号掲載
それは卓球界で触れてはいけないことなのか。
それともただの迷信のようなものなのか。科学的な根拠もなく、卓球選手が信じ込んでいる「用具のタブー」に触れてみる。

01■重いラケットで打つとボールは重いのか
02■なぜ3000円以下のラバーの相場が8000円、9000円になったのか
03■日本で売るシューズと欧州で売るシューズは違うのか
04■卓球で厚底シューズは登場するのか
05■シューズの軽さと、耐久性は両立できるのか
06■黒いラバーは回転がかかるのか
07■なぜバタフライだけスポンジ硬度表記が違うのか
08■硬いスポンジのほうが威力は出るのか
09■表ソフトのほうが裏ソフトよりもスピードが出るのか
10■粘着が強いほど回転はかかるのか
11■強い回転のボールに裏ソフトはスリップするのか
12■合板枚数が多いほど、弾むラケットになるのか
13■日本のユーザーはヨーロッパや中国よりもラケット重量を気にするのか
14■契約選手は市販の用具を使っているのか
15■プラスチックボールで回転量とスピードはダウンしたのか
16■粒ラバーの表面に布目があると回転がかかるのか
17■メーカーの性能表記は信じていいのか
18■表ソフトの縦目と横目で性能は本当に違うのか
◇◇◇
「カン違い」かもしれない「あなたの知識」
「卓球界で信じられている用具の常識」もしくは「○○に違いない」という用具への迷信を、卓球メーカー、そして本誌卓球王国でもおなじみの卓球コラムニストの伊藤条太氏に聞いてみた。伊藤氏はライターではあるが、もともと東北大と同大学院で応用物理学を専攻し、理系の目を持つエンジニアでもある。「どうも卓球メーカーの言い分が疑わしい」という冷ややかな分析家として登場してもらった。
♣卓球メーカー等の開発担当者
♥伊藤条太
♦編集部
イラスト=バーヴ岩下

01 重いラケットで打つとボールは重いのか
♣ボールの重い軽いは、人の感覚的なものであるため、科学的な回答はできませんが、同じスイングをした場合、重いラケットで打ったほうがボールに加わるエネルギーは大きくなります。(タマス研究開発部)。
♥話を簡単にするために回転をかけないスマッシュだけで考えます。ボールの『重さ』が、相手が受けた時に手に感じる衝撃のことだとすると、打ったボールの『スピード』が速いほど『重い』と言えます。一般的に重いラケットほどボールにスピードが出るのでボールが重い傾向はあります。しかし、軽くてスピードが出るラケットもあれば、重くてスピードが出ないラケットもあるので、ラケットの重さはボールの重さに必ずしも直結しません。直結するように感じる人は、ラケットの『重さ』という性質がボールに乗り移るような錯覚をしているものと思われますが、そういう物理法則はありません。(伊藤条太)
♦ある時、卓球メーカーの人と話をしていたら、「今度、軽いラバーを出すんですよ。今までのうちのラバーが重いと選手に言われたので。でも、ラバーが軽いせいか、ボールが軽く感じるんですよ」と真剣な顔で言ってきた。
思わず「ぷっ」と笑いそうになった。ラバーの「重い・軽い」が、そのままボールの「重い・軽い」になると思っているようだ。卓球のボールは2・7gで、物理的に重くなったり、軽くなったりはしない。それはタマス社が指摘するように人間の感覚だ。相手のドライブを「重く感じる」というのは回転量の影響も大きい。より多くの回転がかかっているためにブロックした時にその衝撃を感じるのだろう。
つまり、ラケットの重さやラバーの重さよりも、その用具がどれだけボールに回転をかけられたり、スピードが出るものなのかという点が重要で、用具の重量とはあまり関係ないことになる。