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[ようこそ卓球地獄へ/たまには真面目な卓球論]卓球は暗いスポーツか
卓球王国ブックス「ようこそ卓球地獄へ」<第5章>より <その45>

Text & Illustration by
伊藤条太Jota Ito
確かに卓球は暗い方に位置するだろう。 だが……それがどうした?
1980年代前半、タレントのタモリが卓球を「根暗のスポーツ」とお笑いのネタにしたことがきっかけで、日本卓球界は深刻なダメージを受けた。卓球と聞けば「暗いねえ」というのが初対面でもお約束のギャグとして言われた。教育実習に行った先で女子中学生から「先生はどうして卓球なんて暗いスポーツしているんですか」と理不尽なことを言われた仲間さえいたぐらいである。
卓球は本当に暗いのだろうか。こう書くと、卓球コラムニストなのだからきっと「明るい」と書く気なのだろうと思うだろうが、それでは逆モーションにならない。
卓球はどう考えても暗い。夏の天気のよい日に室内で窓を閉め切って暗幕を張るあたりからして、まず物理的に圧倒的に暗い。動きもせせこましい。小さいコートでせわしなく打球を行うのだから、スポーツに期待される大らかさ、爽やかさといったものが皆無だ。もしすべてのスポーツを明るい順に並べたら、確かに卓球は暗い方に位置するだろう。 だが……それがどうした? そんなことはどうでもよいではないか。スポーツを明るいか暗いかという一つの指標で判断することが間違っているのである。チェスや将棋の名人を「黙って考え込んでばかりであの人暗いね」と批判する人はいない。卓球の持つ暗さは、それと同類の高度に複雑な知的ゲームの属性なのである。