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THE FINAL 2026 全日本卓球 男子シングルス優勝・松島輝空「セオリーにとらわれない大胆不敵なプレーと、王者のメンタリティ」

卓球王国2026年4月号掲載【全日本卓球2026】

Photo:卓球王国&奈良武

鈴木と濵田以外の4選手とは昨年も対戦しており、決勝の対戦相手である篠塚とは3大会連続の対戦となった。ジュースにもつれた8ゲームのうち7ゲームを奪取しており、終盤での勝負強さが際立っている

相手をねじ伏せるロングサービスと逆足サービスでの「奇襲」。常に勝利への最短距離を突き進む

 勝つためなら、何でもやる。ひと言で言い表すなら、松島輝空とはそういうプレーヤーだ。

 もちろん否定的な意味ではない。セオリーにとらわれず、勝利への最短距離を突き進むことができるのだ。

 その特徴は、サービス・レシーブに端的に現れている。たとえば、相手をねじ伏せるようなロングサービス。台上プレーからチャンスを作る「様式美」にこだわる選手が多い中で、松島は「ドカン」とロングサービス1本でエースを奪う。緊迫したジュースの場面でもお構いなしだ。

 初戦となる4回戦の対戦相手・鈴木颯(愛知工業大)は試合後、「輝空はロングサービスがすごいし、普通の選手の何倍も出してくる。2ゲーム目のジュースで連続でロングサービスを出されて、3本連続でレシーブミスをした」とコメント。6回戦で敗れた濵田一輝(早稲田大)も、「ロングサービスをガンガン出してくる。そこに意識づけをされて、短いサービスへの出足がワンテンポ遅れる」と語っている。

ラブオールからでもガンガン使う、威力満点のロングサービス(写真は決勝の篠塚大登戦)

 準決勝の張本戦では、1ゲーム目の0-6で出した逆足のサービスが注目を集めたが、試合後の会見で松島は「最初から出そうと考えていたサービスではない」と語っている。つまり、ぶっつけ本番、思いつきで出してみたサービスなのだ。それでも相手の目先を変え、リズムを崩して劣勢を挽回するため、使えるものはなんでも使う。

 海外選手なら、パリ五輪男子銀メダリストのモーレゴード(スウェーデン)が近いタイプだろう。セオリーを破ることを恐れず、奇襲を仕掛けて相手の持ち味を封じてしまう大胆不敵なプレーは、今までの日本選手にはない魅力がある。

「常日頃、バックハンドは相手に打たれた時に倍の質で返すことを意識して練習している」(松島輝空)

 一方で、準決勝の中盤で張本の両サイドを何本も打ち抜いたバックドライブは正面突破、圧巻の一撃だった。

 水谷隼や丹羽孝希など、世界に誇る天才左腕を輩出してきた日本だが、松島ほどのバックハンドの攻撃力を備えた左腕は記憶にない。敢えて挙げるなら「怪童」と称された坂本竜介か。松島もまた飛び切りの怪童に違いない。

 「バックハンドは昔からうまいと言われていたけど、まだまだ安定性やボールの威力、回転量などを含めて完璧ではなかった。満足できるバックハンドではなかった」と松島は語る。「常日頃、相手に打たれた時に倍の質だったり、相手が押されるくらいのボールで返すことを意識して練習している。それが発揮できたかなと思います」(松島)。

 優勝会見で二度口にした、「常日頃の練習」という言葉が印象的だった。天賦の才ではなく、日々の地道な練習で磨き上げた技術なのだ。

「松島選手はリードされていても、常に『逆転する』という気持ちを持って試合をしていた」(張本智和)

 また、精神面でも王者に相応しいメンタリティが備わりつつある。

 松島曰く、今の課題は「しっかり粘り強さを見せていくこと」。かつては大きくリードされると集中力が下がり、プレーが淡白になる場面があった。今でも国際大会ではその課題が顔をのぞかせることがあるが、本人もしっかり自覚しているのだろう。

 準々決勝の吉村真晴(SCOグループ)戦は、今大会で初めて1ゲーム目を先取され、4ゲーム目までジュースの連続という苦戦の末に勝利。「我慢、我慢と自分に言い聞かせながらプレーしました」という、令和のチャンピオンらしからぬコメントも残した。

●男子シングルス準々決勝
松島輝空(木下グループ) 4[-11,10,12,11,6]1 吉村真晴(SCOグループ)

準々決勝の吉村戦は1ゲーム目を落としたが、2〜4ゲーム目のジュースの場面で抜群の勝負強さを見せた

 準決勝や決勝で劣勢の場面を何度も逆転できたのは、戦術を変える思い切りの良さに加え、気持ちが最後まで途切れなかったからだ。国内外の大会で何度も神がかりの逆転劇を演じた「不屈」の男、張本智和が試合後に、「リードされていても常に『逆転する』という気持ちを持って試合をしていた」と松島を称えている。

 高校2年からの全日本選手権2連覇は、水谷隼以来の快挙。前人未到と思われた水谷の「V10」に迫る可能性を感じさせるが、松島は以前から「全日本での優勝回数はあまり目標にしていない。それよりもオリンピックや世界の舞台で勝ちたい」と語っている。

 全日本の舞台に棲むという魔物の正体は、勝利を欲するがゆえに襲いかかる重圧だ。この伝統ある舞台で、その重圧にとらわれずに力強く走り続けることができるなら、全日本での強さは今後も揺るがないだろう。

 昨年の全日本初優勝後の会見で「世界ランキングを一桁にしたい」と語り、世界ランキング8位で今大会を迎えた有言実行の男は、「世界ランキング5位以内」を今年の目標に掲げる。

 日本の卓球界に新たな潮流を生み出す創造者。松島輝空が目指す高みは、まだまだ遥か彼方にある。

表彰式での女子シングルス優勝の張本美和とのツーショット。全日本選手権は若きチャンピオンによる、新たな時代を迎えた