戸上隼輔「ルブラン兄弟との練習、正直、死ぬほど刺激になりましたね」
[卓球本悦楽主義19] 理論家・福士により蘇る昭和初期以前の技術と選手
〈卓球専門書の愉しい読み方19〉卓球王国2005年7月号掲載
Text by
伊藤条太Jota Ito
「これからの卓球と卓球哲学」
■ 福士敏光・著[昭和五十九年 自費出版] ※現在は絶版
理論家・福士により蘇る昭和初期以前の技術と選手
「これからの卓球」と題し、昭和59年に発行されたにもかかわらず、根拠となる技術のほとんどが昭和初期以前のものという恐るべき卓球本である。著者の福士は昭和初期に活躍した名選手であり、昭和17年にも「卓球」という名著を成した理論家でもある。
まず福士は、導入部で「これからの卓球ではショートが重要」と、やおら結論を出す。そのショートの要点について、福士は次のように書く。
なお、私と同時代のショートプレーヤは、すべて返球してラケットを手元に引く時には必ずラケットの下部をコートにあてながら引いたものだ。打球の安定のためである。最近はこう言う動作が見られないようだ。ショート技術は退歩したものと思う。
「最近」がいったいいつのことを指しているのか興味深いところだが、技術が低下しているのはショートだけではない。カットもだ。最近の選手はカットに専念せず、攻撃も並行して練習するため「カット技術がまるでだめになった」というのだ。このようなプレーヤーは忌憚(きたん)「なくいえばカットの真似をしているに過ぎない」と厳しい。そして促進ルールがこの風潮を助長していると批判する。ルールまで批判してしまうところが福士の懐の広いところである。