[卓球本悦楽主義3]数学的な美しささえ持つ戦術論 溢れ出る真摯で若い情熱
〈卓球専門書の愉しい読み方3〉卓球王国2004年3月号掲載
Text by
伊藤条太Jota Ito
中高校生指導講座1
■荻村伊智朗・著[ 昭和38年 卓球レポート編集部]※現在は絶版
数学的な美しささえ持つ戦術論 溢れ出る真摯で若い情熱
一流スポーツマンの美しいフォーム、超人的な技術は見る人の心をとらえる。「自分もあのように」と、大きな夢を抱き、そしてそれを実現したよろこびにひたれるのは、青少年だけに与えられた特権だ。
芸術家が画布と絵の具を、楽器と指を素材として自己の凡てを、その時代を、そして全宇宙を表現しようとするように、スポーツマンは自分の肉体と競技用具とを素材として自己を表現し、人間能力の限界を、最高最美の感動を具現しようとするのだ。
老人にも卓球はできる。老人にも夢はもてる。しかし、それは自ら限界を設けた卓球であり、夢である。また、老人の卓球はそうであってもよいのだ。彼らには彼らなりに純粋に卓球の楽しみにひたる権利がある。
しかし、自分の能力と自分の努力とに無限の希望と自信を持つことのできる少年少女たち、君らが自ら限界を設けた卓球と夢に甘んじることはないのだ。
大きな志をたて、そしてそれを貫き通そう。夢を実現した大きな喜びを観る人々と共に味わえる、そんな選手になろう。
この感動的な序文で始まる「中高校生指導講座1」は、荻村伊智朗の最初の単行本であり、荻村がまだ現役選手の時に発行された。時に荻村31歳。内容は、卓球レポートに同名で連載されていたものを編集したものである。連載の開始は59年、二度目の世界チャンピオンとなった3年後である。世界一流の現役選手による技術指導なのだから、この連載が読者に与えた影響は大きかっただろう。