真説 卓球おもしろ物語33【東京五輪で悲願の中国越え、水谷隼/伊藤美誠の混合金メダル 〈最終回〉】

百年の茅台酒が語る秘話⑤
〜松﨑キミ代と周恩来の友情〜
1949年の中華人民共和国の建国後、常に実務の中枢で活躍し、
「不倒翁」と称された周恩来総理は、1976年に逝去した。
それから35年の月日が流れ、中国を訪れた松﨑キミ代は、
周総理から送られた茅台酒を、その故郷の茅台酒工場へと送り届けた。
日中両国民の深い友情の記念碑とするために。
文=李永亮 text by Nagasuke Li(アジア芸術文化協会 理事長)
翻訳=古屋順子 translation by Junko Furuya
写真提供=松﨑キミ代 photo courtesy of Kimiyo Matsuzaki
すぐに卓球仲間に電話して、敬愛する総理への告別のため
みんなで一緒に大使館に行こうと言ったのです。(松﨑キミ代)
1975年の盛夏、日中シニア卓球選手の親善対抗試合に参加するため、松﨑はまた中国の地を踏んだ。しかしこのとき北京では周恩来総理と会うことはできなかった。「そんなことは今までありませんでした」と、松﨑は声を詰まらせる。彼女の心には悪い予感が生まれた。
東京に戻ると、その夜のうちに彼女は周総理に手紙を書いた。切羽詰まって彼女が封筒に書いた宛先は「中国 北京中南海 周恩来総理」。実のところ、松﨑は周総理の詳しい住所など知るはずがなかったし、この手紙が周総理の手元に届くかどうか知る由もなかった。