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[ようこそ卓球地獄へ/たまには真面目な卓球論]フォーム考  

卓球王国ブックス「ようこそ卓球地獄へ」<第5章>より <その44>

 

Text & Illustration by

伊藤条太Jota Ito

「そうか、そんなに卓球が好きか」という親近感と「あーっ、やめろバカ!」という恥ずかしさとが入り混じった気持ちになった

 1996年頃、仕事で東京・目白台の日本女子大で講演会に参加したときのことだ。講演会が終わって、JR目白駅に向かう15分ほどの道のりでそれは起こった。40代後半ぐらいのその男性は、大勢の参加者たちと一緒に会場から出てきたらしいのだが、異常な早足だったのですぐに私の目をひいた。ところが早足だけではなく、どうも様子がおかしい。後ろ姿のわずかな動きが、卓球の素振りのように見えるのだ。まさか。卓球とは何の関係もない講演会の参加者がスーツ姿でしかも路上で歩きながら卓球の素振りなど、あるはずがないではないか。そう思っていると、男の動きは肘、肩としだいに大きくなり、ついには誰が見ても卓球の素振りになってしまった(しかもカットのフォアとバックの切り替え!)。男の素振りは歩くほどに熱を帯びていき、駅に着く頃には腰の回転から重心移動まで完璧に加わった素振りが、人ごみの中で繰り広げられるに至ったのだった。私は「そうか、そんなに卓球が好きか」という親近感と「あーっ、やめろバカ!」という恥ずかしさとが入り混じった気持ちになったのだった。

 日本の卓球選手は昔から素振りが好きである。よいフォームがよいボールを保証するというフォーム重視の考え方があるためだ。よいフォームを身につけることが上達することだと思っているようでさえある。よいフォームとは、極論すれば試合に勝つフォームであるが、卓球はあまりに多様であり、そんなものは誰にもわからない。現実には、よいフォームを追い求めれば、成功した選手をなぞるか、フォーム自体の美しさや合理性を求めるぐらいしかない。

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