[クローズアップ]O-KOKUへようこそ。14言語で日本から世界へ発信する
卓球王国2026年8月号掲載
世界の卓球情報を卓球王国が発信する
卓球王国は新サイト[O-KOKU]で、世界に飛び出す。伝統のあるヨーロッパの卓球愛好者。情報の少ない東南アジア、西アジアの愛好者。そしてアメリカ大陸。世界の卓球人へ情報を発信する時が来た。


「当たり前でない」卓球王国の情報を世界へ届ける
そのアイデアは、突然舞い降りた。
2月の上旬、偶然テレビのバラエティー番組を見ていた時だった。テーマは「日本のエンターテインメント」。日本のアニメーションの売上がハリウッド映画に迫っている(実際にはまだ差があるらしい)という切り口で、アニメやJ-POPなど、日本独自の文化や娯楽が世界中の人々に愛されていることを紹介する番組だった。
画面には、東南アジアで日本語を知らない若者が、カラオケでアニメソングを熱唱する姿が映し出されていた。今まで日本国内でしか共有されていないと思われていた世界観に、海外の人々が興味を持ち、時には「聖地巡礼」として来日する。
東京を見渡せば、インバウンドの観光客はどこにでもいる。彼らは日本人が行かないような場所や、知らない店に行列を作る。日本人にとっては当たり前に思うこと、当たり前の味に、彼らは「当たり前でない何か」を感じ取っている。
「卓球王国WEB」とは別に、課金制(サブスクリプション方式)の「卓球王国PLUS」を1年数カ月前からスタートさせた。新会員が毎日のように登録され、少しずつ増えている。基本的には、過去の『卓球王国』のアーカイブ(過去の記事データ)、最新号の記事、独占記事やインタビューを掲載するプラットフォームだ。この「卓球王国PLUS」のような記事を、海外に向けて発信したらどうだろうか。
日本には他にも卓球メディアが存在し、過去に紙媒体として、卓球王国以外にも貴重な情報を掲載してきた長い歴史がある。近年はそれにネット情報が加わり、ある意味では「情報過多」の状況かもしれない。その中で「卓球王国」は、正しい情報と、卓球界を俯瞰する視点を持ちながら記事を作ることを常に心がけてきた。
そして、これまで30冊を超える書籍を発刊し、350冊の月刊誌と40冊の別冊を作り続けてきた。その眠っている膨大なアーカイブを世界に発信できないだろうか。
創刊の頃からヨーロッパや台湾、韓国などから「卓球王国を自国語で発刊してくれないか」という声は多かった。10年ほど前にも、英語版の『卓球王国』をWEB限定で作ろうとしたことがあったが、費用と時間を要するだけで終わってしまった苦い経験がある。
しかし、今ならAIがある。多言語展開が技術的に可能かどうかを、エンジニアの小田卓志氏に相談した。すると、「可能ですよ、やりましょう」と即答された。「言語は好きなだけ増やせます」という心強い言葉をもらった。
また、経営者であり公益財団理事長であり、卓球人である加藤学氏にこのアイデアを話すと、「おもしろい、絶対いい!」と背中を押してくれた。海外の友人に相談したところ、「Congratulations!(おめでとう!)」と言葉が返ってきた。いや、まだ形にもなっていないのだが……。
こうして、2月23日には企画書ができ上がった。
次は名前だ。ちなみに30年前、『卓球王国』の創刊当初から設定していた英語名は「World Table Tennis」だったが、今やそれは「WTT」の正式名称になってしまった。次に候補に挙がったのは「TT KINGDOM」。卓球王国の直訳だ。もしくは「KINGDOM PLUS」か。
会議では、中川学編集長から意見が出た。「TT KINGDOMは長い。『OUKOKU(王国)』はどうですか。『SUSHI』や『MANGA』のように、日本語がそのまま世界の言葉になっていますから、OUKOKUがいいと思います」
迷っていた3月上旬、知り合いのドイツ人が来日した際、食事をしながらこのアイデアを説明してみた。すると、「KINGDOMはヨーロッパではギャンブルサイトをイメージしてしまう。意味は直感的にわからなくても、OUKOKUがいい。ただ、見た目的にはOKOKUのほうがスッキリしていいよ」という意見をもらった。そこからすぐにO-KOKUへと変化し、その場で決めた。
次に知人の紹介で京都在住のスウェーデン人デザイナー、ヴィレ・フォン・プラテン氏にロゴとWEBデザインを依頼した。しかし、なかなかデザインができ上がってこない。しびれを切らし、別のデザイナーにスイッチしようと決めかけたまさにその日にメールが届いた。まずはサイトのロゴ。そこから2週間後、5月の連休明けにWEBデザインが届いた。
そして、5月下旬から記事を入れる作業に入った。2月23日の着想から、3カ月余りでの完成。あっという間の出来事だった。

紙があるからこそ、卓球専門メディアの価値がある
「O-KOKU」では14言語を選択できる。日本語、英語、中国語をいわゆる「ハブ言語」とし、そこから派生させる形で、韓国語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、スウェーデン語、ロシア語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語を揃えた。卓球の専門用語や人名は、事前にAIに学習させて精度を高めた。
1997年1月に創刊した『卓球王国』。その30年間にわたる記事のアーカイブと最新情報を、世界に向けて発信できる日が、ついにやってきた。
「日本に偏った記事が多いのに、世界の卓球愛好者がお金を出してまで興味を持つのか?」という手厳しい質問を投げかけられたこともある。
しかし、世界を見渡せば、卓球専門の紙メディアは極めて少なく、「卓球ジャーナリズム」という視点で記事やインタビューを構成できているメディアはほとんどない。『卓球王国』にはそれがある、という自負がある。
しかも、今の日本は中国に次ぐ世界No.2の実力を持ち、世界的なスター選手を数多く擁している。我々は彼らのインタビューを重ねてきたし、海外のトップ選手も数多く取り上げてきた。そして何より、卓球の歴史や、用具の歴史などを記事にしてきた。世界の王者である中国選手のインタビューを簡単に獲得できないのは残念だが、日本には中国で厳しい訓練を積み、そのノウハウを日本語で語れる優秀なコーチがたくさんいる。世界の中で、日本は間違いなく重要な情報発信基地なのだ。
完成が近くなり、このプロジェクトを五輪金メダリストの水谷隼さんに説明すると、「協力しますよ。ぼくの書籍も発信してください」と、ベストセラーの『負ける人は無駄な練習をする』の掲載を快諾してくれた。
この「O-KOKU」を立ち上げながらも、我々は紙を大事にする。選手たちにとっても、雑誌の誌面に載ることが特別なステータスであると信じている。紙があるからこそ、大会の取材で卓球人に会い、選手のインタビューを行い、特集を組めているのだ。
今は、この「O-KOKU」を創り出し、世界へ発信するために、これまでの『卓球王国』の歩みがあったのかもしれないとさえ思う。
いずれ、この「O-KOKU」にはアメリカ、ヨーロッパ、中国、東南アジアなどから、卓球愛好者、卓球ジャーナリストが集まり、彼らが独自の視点で記事を寄稿してくれる日も近い。また、海外の選手たちが、英語ではなく自分の母国語で、思いの丈(たけ)を熱く語るインタビューやリポートが掲載される日が間違いなくやってくる。
これまで深い卓球の情報に触れることができなかったアフリカや東南アジア、西アジア、南米の人々にとっても、「O-KOKU」が有益なプラットフォームになってほしいと心から願う。
まさにそれこそが、『卓球王国』が本当にやりたかったことなのだから。

